ボストン・カレッジの McMullen Museum of Art で開催中の展覧会 Eaglemania: Collecting Japanese Art in Gilded Age America に鈴木長吉の鉄製の鷲が出品されています。
展覧会図録が出ていたので早速購入。図録の表紙になっているのは1954年に設置され、ボストン・カレッジの象徴となった青銅の鷲。経年の傷みにより1993年に複製品が作られ交換されて以降は、いくつかに分割された状態で保管されていました。近年その価値が注目され修復されるに至り、今回の Eaglemania 展もそれに伴って企画されました。
修復された鷲は明治時代の日本で作られ1897年に米国にもたらされたものとのことで、この作品を語るにあたっては、鋳金による猛禽類の作品で名高い鈴木長吉への言及は当然ともいえるでしょう。本展図録所載の論考 “Suzuki Chōkichi: Master of Metal Raptors” の中で、先に触れたメトロポリタン美術館蔵の鈴木長吉作とされる鷲についても述べられています。鋳金家である鈴木長吉にとって専門ではない鍛鉄の技法により作られたこの作品に関しては、「鈴木長吉出品の鉄製龍自在置物 Articulated Iron Dragon by Suzuki Chokichi」で紹介した内容も用いた解説がされていました。この鷲は無銘とのことですが、鈴木長吉が鉄製も含めた自在置物の制作をしていたとみられることや、1903年にこの作品を購入した Steers氏がメトロポリタン美術館館長宛の手紙に記したという「東京の帝室技芸員」についての記述などを合わせると、実製作は自身の手によらなかったとしても、工房作品として鈴木長吉の作であるとするのは妥当だといえるでしょう。
最近確認したのですが、明治18年の第六回観古美術会の出品目録に「新物品」として、鈴木長吉の「銕製鷲置物」が記載されています。「自作」とあるものの、この作品についても実作者という意味ではないと推定されるでしょう。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/849466/54
竜池会編『第六回観古美術会出品目録 第三号』(有隣堂 明治18年)
先述のSteers氏の記述によれば、鈴木長吉とみられる「東京の帝室技芸員」は鉄製の鷲について「青銅で作るものよりも優れている」との旨を語ったといいます。この「銕製鷲置物」が出品された明治18年は、鈴木長吉が青銅の鷲で金牌を授与されたニュルンベルク金工万国博覧会と同年であり、この頃からすでに技法や素材の枠を超えて、金工による猛禽類の表現を追求していた可能性が考えられるでしょう。
『東京国立近代美術館研究紀要』22号(2018年)所載の北村仁美「鈴木長吉作《十二の鷹》の自然科学的調査と修復の報告」(https://www.momat.go.jp/ge/wp-content/uploads/sites/2/2017/03/22_pp.72-84.pdf)で明らかにされているように、「十二の鷹」は複数のパーツを組み立て、彫金と金属着色技術を駆使して作られています。もし鈴木長吉が鉄製の作品の方が猛禽類の表現においては鋳金作品よりも優っていると考えていたとすれば、精緻な彫金技法や金属着色による表現は、鉄製の作品を超えるために必要なものであったのかもしれません。
今回のEaglemania展には、金工では正阿弥勝義の銀製の鷹の作品や、明珍の兜型香炉なども出品されています。兜型香炉は龍の前立てが自在置物と同様な構造になっているとみられるもので、清水三年坂美術館でもよく似たものを見たことがあります。おそらく鈴木長吉と自在置物との関係に言及しているために出品されたのでしょう。図録には猿と鷹の図についての論考もあるため、その図を表したものを含む根付や印籠の出品もあります。
絵画ではメトロポリタン美術館から狩野常信「十鷹書画冊」、ボストン美術館から曽我二直庵の作品が2点出ているほか、個人蔵の六曲一双屏風や、浮世絵、小原古邨、河鍋暁斎の作品なども。六曲一双屏風には十二羽の鷹が描かれています。先ごろ鈴木長吉の「十二の鷹」が重要文化財に指定されたことを思うと、このような展覧会が日本でも開催されることを期待したいところです。
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